いまさら振り向かれるかのような真似は辞めて貰えませんか
いかにも懐かしむかのような言葉を吐かないで貰えませんか
その気もないのに闘うかのような振りをしないで貰えませんか

あなたたちの背中しか視えてはいなかったぼくらに
あなたたちが視た夢とは何だったのかを教えて頂けませんか
三島が割腹自殺をしたのは楯の会の掲げた旗を圧し折ったのは
三島の檄を嘲嗤った市ヶ谷の自衛隊員だけだったのでしょうか
それに力を貸したのは紛れもなくあなたたちではなかったのですか

懺悔の巧言も後悔の虚言もぼくらは聴きたい訣じゃないのです
あの頃にぼくらに視せた背中の向こうにあなたたちの眼（まなこ）に
いったい何が映っていたのかを知りたいのです
その時のあなたたちの顔はどんな形相であったのかを知りたいのです

あなたたちに視えていた体制とはいったい何だったのですか
まさかあなたたちの発熱に絆されてフランス・デモに加わった時
先頭の列を崩されて一気にヘルメットを被っていたら誰彼構わず
ぼくらに殺意と憎悪を滾らせ襲ってきた機動隊ではないでしょうね

ぼくらに託するなどと逃げ口上の言い訣を聴く為に
ぼくらの鼓膜は鋭敏であるのではないのです
そんな申し出は袖にして術もなくお断りさせて頂きます
ぼくらはあなたたちが向かっていったものが何だったのかを問いたいのです
あなたたちが振りかざした刃は肉を切らせて骨を切るものであったのですか

その後の歳月が刻んだ深い皺を湛えた顔つきにいったいどんな意味があるのですか
その顔に誤摩化すような苦笑を嘘だと見抜けないとぼくらを舐めてはいませんか
沈黙という通り一遍の卑怯と傲慢をどうやって憶え身につけられたのですか
誰もが罹る青臭い頃の麻疹みたいなものだったと過去を愛さないでくれませんか

どうか今度はシェルパとしてぼくらを押し上げて欲しいとの願いに頷けますか
それすら無理ならせめてぼくらの軍師になると約束をして頂けませんか
やっとの想いで就職をして勤め上げたその見返りにたかが一、二千万という
端金と年金で悠々自適に余生を過ごしていかれるつもりでおられるのですか

もしそうであるならぼくらはあなたたちと刺し違えてもこの国と世界を
あなたたちの犯した轍は踏まずに変えて見せるつもりでいます
ぼくらはまだ新しい未来を目指す力も強固な決意もまだ持ち得ています

この国に喧嘩を売ったのは紛れもなくあなたたちだったはずです
その高貴に見せかけた思想にぼくらは騙されあなたたちの背中を追ったのです
一旦喧嘩に負けたと見せかけて決起する時を狙っていたのではないのですか
その為に昭和から平成へと変わる長い歳月を耐えてきたのではないのですか

充分に重い十字架を背負って生きてきた働いてきたとの詭弁は
かつてあなたたちの口癖のように愛した総括いうもののつもりですか
どうかあなたたちを憐れみを込めてA級戦犯と呼ばせないでくれませんか
あなたたちはベルリンの壁とソビエトの崩壊をどんな想いで観ておられましたか

まさかあの頃の世界といまの世界は違うんだとは口が裂けても言わないでしょうね
もしもそうだといつかぼくらもこの世界のシステムは分かると仰るなら
ぼくらは本気であなたたちと刺し違える覚悟はあるのですよ

あなたたちにぼくらと刺し違える覚悟はありますか
口籠もることなくぼくらに聴こえる大きさで答えてくれませんか
それがぼくらに背中だけを視せながら偽善ではないように狡猾に生きて
体制のシステムの一部となったあなたたちの贖罪そのものではありませんか

執拗であることは承知でもう一度言っておきます
あなたたちはぼくらと刺し違える覚悟はありますか
ぼくらはあなたたちと刺し違える覚悟はあるのです



※作者注：この拙詩で遣ったシェルパは、ヒマラヤ登山に於ける登山ガイドや荷物運びの　　
　役割をするチベットの少数民族であるひとびとではなく、鉄道の急勾配で使用される
　補助機関車を指します。