冬凪
千波 一也
空は
だれの言葉も聴いていない
雪の語りも
風の遊びも
なにひとつ聴いていない
大地は
だれにも組しない
黙りこむ愛にも
困り果てた踵にも
まったく味方しない
掌に
やっとのことで
包み隠した小さな傷は
いまごろようやく
嘘になる
もう
途方もなく嘘になる
夢は
なんにも見ていない
色も形も
位置も名前も
己を生んだ思いの主も
なにひとつ見ていない
波は
どこにも帰らない
ある筈もない暦なら
ある筈もない情けなら
ある筈もない見分けなら
波は
いつまでも帰らない
どこまでも帰らない