ネルドヴァ  −BWV534
藤原絵理子

城に上っていく石畳に夕陽が反射する
あなたがこの瞬間を見たのはいつの頃?
使い古したカメラのフィルムに残されていた
あなたの鼓動が聞こえてくる

あなたから聞いたピヴォの名前にひかれて
日暮れの街角でホスポダに入れば
幸せそうにさざめく人の群像に
あなたと似た後姿を見つけて鼓動を早める

清潔で明るい先端医療の病室に
あなたをひとり残したまま
あたしは自分の世界に戻ってきた
グレーゴルを見捨てたザムザ一家のように

「夕陽の写真がうまく撮れない」と言った
あなたの娘も夕陽の写真はうまく撮れない


自由詩 ネルドヴァ  −BWV534 Copyright 藤原絵理子 2014-01-13 22:52:41
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