クリスマスローズ
イナエ
夜も光が満ちあふれている
というのに何という暗さだ
積乱雲の内に潜んでいた狂気が燃え上がり
炎となってなだれ落ちた北の空
燃え広がる炎は山を飲み込み
夜と昼 夏と冬が入り交じった都会の
華麗な色彩を燻蒸した
渦巻く煙は人々の中にも浸みて
春になっても 夏が過ぎても消えない
希望は路上に砕け散り
眉間に浮き上がる悔恨が
赤く染まった雪雲を透かし見る
未来を逡巡する人々を前に
雪の煙に揺れるクリスマスローズが
俯いていた顔を上げる
野の花の絶える時期に咲きはじめ
陽春を過ぎても 咲き続ける花
キリストの生まれた日
一人の少女が星に導かれ
馬小屋のキリストと対面したとき
祝いの品がなくて悲しむ少女に
天使が咲かせたという
少女を救った花は
今 路上に砕けた希望の欠片を
つなぎあわせてくれるだろうか
「蕊五十号」から