クリスマスローズ
イナエ

夜も光が満ちあふれている
というのに何という暗さだ

積乱雲の内に潜んでいた狂気が燃え上がり
炎となってなだれ落ちた北の空
燃え広がる炎は山を飲み込み
夜と昼 夏と冬が入り交じった都会の
華麗な色彩を燻蒸した

渦巻く煙は人々の中にも浸みて
春になっても 夏が過ぎても消えない

希望は路上に砕け散り
眉間に浮き上がる悔恨が 
赤く染まった雪雲を透かし見る

未来を逡巡する人々を前に 
雪の煙に揺れるクリスマスローズが
俯いていた顔を上げる
 
野の花の絶える時期に咲きはじめ
陽春を過ぎても 咲き続ける花

  キリストの生まれた日 
  一人の少女が星に導かれ 
  馬小屋のキリストと対面したとき
  祝いの品がなくて悲しむ少女に
  天使が咲かせたという

少女を救った花は 
今 路上に砕けた希望の欠片を
つなぎあわせてくれるだろうか


             「蕊五十号」から


自由詩 クリスマスローズ Copyright イナエ 2014-01-12 10:03:47
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