審判の日
和田カマリ

屋根に大きな聖書のオブジェを載せた
中古の黒いトヨタ・ハイエース
後部硝子一面に赤いビニールテープで
「死後、裁きに会う」と貼り付けてある

第二阪奈道をホーンを鳴らしながら
狂おしく大阪方面に疾走している
防音壁を越え梅林に木霊する音

俺のヒュンダイを軽くパスすると
生駒トンネルのぼんやりと黄色い光線の中に
ダーツのように突き刺さっていった

瞬間だったけどその運転席には
能面の様な伝道師がぶつぶつと
何か言っているのが見えた

遅ればせながら俺も
生駒山をスカートめくりをするように
その薄暗い内臓にエントリーしていった

「なにをそんなに急いでいる?」
見る見る小さくなっていくバイブルカー
「世界の終わりが近づいているとでも?」

聖書カーのドップラー音は
使徒の吹くラッパのつもりなのでは?
きっときっと
トンネルを抜けると黙示録が待っている

地獄に居場所をなくした
大阪中のゾンビが高速道路を封鎖しているのでは?
ユンケル皇帝液の雨が脱毛を促進しているのでは?
リバイアサン達が道頓堀川で交尾しているのでは?

666は悪魔の数字
賢明なる者はこの謎を解いてみよ
確かあの車のナンバープレートは
奈良あ666だった気がする

期待と不安に妄想を拡げていると
円形の昼光色が次第に大きくなり
ついに俺は穴から抜け出した

な、なんと!
出口付近の路側帯に
黒のバイブルカーが止められていた
見ると件のミッショナリーマンは
ハイウエイパトに切符を切られている

奴は死後が待ちきれなくて
あろうことか生前に
警察による裁きを受けていたのだ

まるでウサギと亀みたいに
今度は俺のヒュンダイが
奴のトヨタを軽くパスして行った



自由詩 審判の日 Copyright 和田カマリ 2014-01-10 19:22:03
notebook Home