祖母の記憶
壮佑


十六で嫁入りした祖母は
まだ娘だったから
近所の子供達と鞠を突いて遊んでいた
すると 嫁入りした女はもう
そんな遊びをしてはいけないと
誰かの叱る声が聴こえて来たという


春の夜明け前に
積み重なった笹の葉の下から
筍が微かな音を立てて生えて来る
祖母が竹薮に行くと
子供の姿をした竹薮の精が
飛ぶように先を走って行き
祖母は少ししんどそうに笑いながら
その後を追って筍を掘る


雉が飛び立つ夏の畑で
祖母と離れて遊んでいた私は
からす蛇に遭遇して泣き出した
祖母は作業の手を休め
額の汗を手甲で拭いながら
雉と一緒にからす蛇も飛んで行ったと
泣き止まない私を慰めた


秋になると祖母は
竹で編んだ箕の中に
収穫した穀物を入れて揺さぶり
殻や塵を巧みに分け除いてゆく
幼い私も真似をして遊んだが
上手くゆくわけはなかった
祖母の記憶はいつも
この作業をしている姿で終わる


或る冬の日の夕刻
村人が草叢の中に倒れている祖母を見つけた


お寺に向かう長い葬列
大人達はしきたり通り
頭に白い三角の紙を着けていた
その中に私もいて
あちらこちら動き回っていた


小学校の横の登り坂に差しかかると
私を見つけた同級生達が
校舎の窓から身を乗り出して囃し立てた
私はとてもばつが悪かった
もう 竹薮の精になって
祖母と筍を掘りに行けないのに


春に祖母のことを思い出していると
夜がだんだんと更けて行く間に
遠くの竹薮の地面がゆっくりと盛り上がり
筍が生え出て来そうな気配がある
その横で十六の娘が
鞠を突いて遊んでいる





自由詩 祖母の記憶 Copyright 壮佑 2014-01-08 21:21:49
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