雨糸
凛々椿
(心配、しないで)
手を絡める
舌が這う
異質が触覚を支配する
追いかける
余韻
雨の匂いがするんだ
朝から
曇っていて
ずっと
帰りのバスの道途中に
空き地に放置された証明写真機があるんだよ
それが不気味でね
と
あなたのはなし
黒い傘が 佇んでいる
(そうだね)
あなたの背後でずっと顔を 覆い隠してる
(不気味だね)
答えるふりをして 私の
視線は黒い
傘に
雨は
まだだ
昨日までは 晴れの予報だったね
いつものように
あなたは帰る赤いバスに乗って
知らない町へいつものように手を振る
笑顔が
網膜に残されて
会うたびに
死なないでよ
と
肩を引き寄せるあなたのぬくもりに私はいつも
後悔するんだ
ごめんね
ぽつり
ぽつん
頬を爪先を
空が濡らしはじめる
切らした息のように少しずつ
不規則に
降られてもいいように傘を持たせればよかった
ね
ほんと気の利かない女だ
私は
ひとつ
ふたつと傘の花が咲き揃って 靄に
黒が
混じリ込む
指は
震え て
そろそろ
バス
は 空き地の前を通り
過ぎたのかな
近いうちに一緒に乗せてね
見てみたい んだ
あなたと赤いバスに乗って 早く
見せて
お願いだから早く
(気をつけて)
早く!
私は
(死なないで)
私は
いつかのやさしい言葉たちをのどに 震わせて
黒い傘の
まぼろしを 振り仰いだ