オフサイド ビッチ
末下りょう

ヤリマンの彼女から移されたクラミジアを抗生物質が死滅させた日の午後、十八のとき付き合っていた彼女が中絶した日の午後の寝顔を思い出した。

その彼女が二度目の妊娠をした時ぼくは二十だった。もう産婦人科に付き添うのも拒絶され、中絶の為の費用だけを銀行から振り込んだ。それ以来彼女とは会っていない。数年前にヤリマンの今の彼女と水族館に行った時、あの頃の彼女に似た人が小さな男の子と手を繋いでペンギンを見ているのに気づいて、隠れるように慌てて逃げた。男の子の横顔と彼女の横顔はよく似ているように思えた。

今ぼくはいつどんな性病にかかっても構わないし、いつ子供が出来ても構わないと思っている。でもヤリマンの彼女はそう簡単に妊娠したりはしない。フェラチオの時点でいかされるときもあるし、アナルがいいと言われるときもあるし、わざと中出ししてもあったかーいとか言って平気な顔でタバコをふかしたりしている。

そんなビッチをぼくは今、愛している。

多分ほかにも男が何人かいるだろうし、たまに名前を間違えられたりもするけれど、そんなビッチを心から愛している。未来ばかり気にしているぼくの友人はぼくの頭が変になったと思っている。

そんなビッチな彼女とはじめてデートしたとき、彼女は公園の芝生でサッカーをしていた少年達に混じってボールを裸足で追いかけはじめて、パスパスパスパスと叫びながら金髪をなびかせ美しく完璧なオフサイドでシュートを決めた。その瞬間にぼくは恋に落ちていた。

お尻を叩かれるのが大好きでバビンスキー反射が苦手な彼女

「地球外生命体が地球にコンタクトしてきた場合、人類の代表として最初に彼等とコンタクトするのは日本人が最適である」そうペンタゴンだかの機密文書に記してあるらしいけれど、その中でもぼくのビッチがナンバーワンだと信じている。



散文(批評随筆小説等) オフサイド ビッチ Copyright 末下りょう 2014-01-07 01:21:41
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