花を育てるひとへ
村田 活彦

しゃがみこみ 君は土に触れる
口にできなかった思いが
冷えて固まっている

ほこりを舞いあげながら
潮まじりの風が頬をたたく
道であったはずの地面が続いている

枯れたつる草をはぎとり
瓦の破片をどかし
きみは土を掘る

スコップで それからその手で
砂と砂利とねば土の奥へ
貝殻や割れたガラスや針金のハンガーや
醤油のペットボトルをかき分けながら

ゆっくりと耕す

爪の間に入り込むざらざらした感触
そのなかで微生物たちがざわめいている
足元ではミミズもオケラも祭りを続けている
泥と油のしたで根っこが伸びる

君は種を植え、水をまく
それしかできないからとほほえんで
今は会えないひとに手紙を書くように
あの日の自分に手紙を書くように


失くしたものかわりに なりたい
失くしたものかわりに なれない

咲くか 枯れるか 実るか 腐るか
ひたすら土の上に生き 土の下に還る

あたりまえのことをしたいのだ
くりかえすことをしたいのだ
ちゃんと季節がめぐることを確かめたいのだ
この場所で


君は花を育てる
いつか出会うひとに手紙を書くように


自由詩 花を育てるひとへ Copyright 村田 活彦 2014-01-07 01:12:21
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