酒場の爺の世迷言
……とある蛙

港街のとある酒場で出会った爺
コップ酒で赤ら顔、威勢は良くて饒舌で、昔語りを捲くしたて、嘘か誠か話の先で、次第に次第に静かに眠りこむ。

小柄な爺の世迷い言

小僧よく聞けこの俺は
十五の時には家出して
街から街への放浪暮らし
幾度も幾度も死にかけて
山の上から街を見て
谷の底から月を見る
たどり着いたが
元の家


小僧よく聞けこの俺は
二十歳(はたち)のころには商売暮らし
仕入れのための旅暮らし
行く先々で買いまくり
どれも世界の珍品奇品
世間に二つと無いものばかり
仕入ればかりで増えすぎて
何が何やら見当つかず
そのまま人にくれたった。

小僧よく聞けこの俺は
四十の時には借金し
夜毎夜毎の大尽遊び
女女の毎日で
幾度も人から恨まれて
毎度毎度の刃傷沙汰で
作った借金五千億

小僧よく聞けこの俺は
五十の時には破産して
世界を股に逃亡暮らし
他人の軒に仮寝して
他人の飯をかっぱらい
歩いた街が千以上

小僧よく聞けこの俺は
還暦をむかえ、帰国して
人を騙して政治家に
嘘だけついて泳ぎ切り
あっと言う間に大臣に
そのまま人を顎で使い
うまくいったのはそこまでで
汚職にまみれて刑務所暮らし

ここから爺は泣き声になり、声の調子は低くなり、下を向いて酒啜り、こんなことを言い出した。

小僧よく聞け本当は
いつも悲しい貧乏暮らし
生まれた家から離れずに
そのまま家族の面倒見
気づいて見れば俺独り
父も母もいなくなり、
結婚なんぞ面倒で
気づいて見れば俺独り

小僧よく聞けこの俺は
人を騙したことも無く
人と争うことも無く
人からまじめとうわさされ
ただの一度も泣かなんだ

小僧よく見ろこの俺を
今日を一度の世迷い言
今さら言っても始まらん
夢を見るには遅すぎた。
何を言ってもしょうもない

※過去作の改題加筆訂正したものです。


自由詩 酒場の爺の世迷言 Copyright ……とある蛙 2014-01-05 16:29:58
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