「あの日」
宇野康平
蛍光灯が点滅する風呂場で濡れた身体が
一つになろうとして、震える手を抑える。
「痛い」とお前が言うから離した手を強
く、お前は繋ぎなおす。
お前は、ご丁寧にゆっくり身支度をする。
離れ難い、その手に触れると、今にも壊
れそうな繊細な微笑みを返す。
それにやられて涙を流す。「許してくれ」
と言うと。お前は頬に手を触れて、頭を
二度三度振ると、火のように、熱くなっ
た唇を首に付け、所有を示す刻印をする。
夕方の事、戦争は音を立てて、近づいて
いた。
自由詩
「あの日」
Copyright
宇野康平
2013-12-30 20:46:25