約束
ichirou

母からの電話
実家の私の部屋を母が掃除していて

「小さな何かの種が机の引き出しに
いっぱい散らばっているけど
捨てていい?」

小さい種?
クレオメだ

  「だめだよ。大事な種だ。」

僕はとっさに答えた


そうだった
ずっとむかし
約束をした

クレオメの種をあげる約束を


一度種をまいただけの
一年草のクレオメ

花が咲き
種を実らせ
何年も勝手に庭に自生していた

夏の夕暮れ
まるで
蛍光を発しているように浮かび上がる
クレオメ

大好きだった


ところで
いったい
僕は誰にクレオメの種を
あげる約束をしたのか
思い出せない


  「だめだよ。大事な種だ。」

「そういえば、あんた、自分の家を建てたら
庭に同じ花を咲かせたいって 種を集めてたわね。
その種?」

ああ
そうだった
僕だったんだ



自由詩 約束 Copyright ichirou 2013-12-29 10:53:04
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