風船
寒雪

ポケットを探ってみると
知らない間に
母親がしのばせたのか
指先では数えきれない
いっぱいの風船
ひとつ手に取って
覚束ない肺活量を頼りに
顔を赤くして
時間はかかるが
膨らませてみる


出来あがった風船は
いつかの公園で見た
ピエロが誤って
空に打ち上げてしまった
あの時の風船に似てた気がする
ピエロの仕草を
遠い記憶を追いかけ
同じつもりで自分も
風船を高く投げてみる


手を離れた風船が
どのような道程を経て
色々な冒険譚を
繰り広げて
運が良ければ
また自分の下に
ありもしない妄想を
可能性はゼロではない
などと独りごと


ぼくの期待を背負ったはずの
風船はあっという間に
地べたに落ちて
風に吹かれて転がった
風船はガスを入れないと
浮き上がらないことを
今になって思い出した


自由詩 風船 Copyright 寒雪 2013-12-26 08:36:45
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