幼子が去った後には
いねむり猫


降りそそぐ5月の光が せせらぎの上を転がり 溶けて 

自らの背に光を受ける 小さな魚の群れが
黄金色の川底の砂に 等間隔の影を落とす 

若草の緑が流れを縁取り 
木々のざわめきが 水流の波紋を乱して、
流れに逆らう魚たちも 小さな波を描いている


人と関わりのない 光と命の共鳴 


でもその幼子は、魚たちの脈動する感触を求めて
小川と光の戯れの中に 迷わず手を差し出す

砕ける光と水しぶき
予想しなかった 水の冷たさと流れの重さ
その小さな指先を かすめたかもしれない
しなやかな感触

こらえ切れない 声がはじけて
幼子の驚きは風に乗り まだ雪が残る峰を越えていく

遠く 遠く 流れ去る 
再び巡ることのない 出会い  

そして蹂躙され 濁った流れは、
やがてまた、静寂の音を取りもどす

気まぐれな幼子が去った後には

ときおり魚たちを驚かせるのは 遠い遠い雲の影




自由詩 幼子が去った後には Copyright いねむり猫 2013-12-23 18:20:14
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