シジミ蝶
壮佑


国道二号線を走っていたら
ふいに視野の右側から
何か小さなものが飛び込んで来た
と思ったらサイドミラーの上に
シジミ蝶が止まっていた
小指の爪ほどの大きさの
灰白色の翅をピタリと閉じて
全身で風を浴びている
すぐに飛んで行くだろう
ちらりちらりと見ていると
アクセルを踏む足が緩んでくる
バックミラーの後続車が迫って来た
少し焦ってアクセルを踏み込む
吹き飛ばされるかな?
風の変化など平気なのか
シジミ蝶は動かない
ちら見を続けていると
またアクセルが緩んでくる
後ろの車が迫って来て
またアクセルを踏み込む
これを何度か繰り返したが
シジミ蝶は動かない
道路の両側に続いていた
古い街並みの片側を抜けると
港の棕櫚の木が見えてきた
十字路に差し掛かり
赤信号で停止する
風が止んだ
向こうに海が見える
ふいにシジミ蝶が飛び立った
フロントガラスに斜めにぶつかって
表面に曲線を三つ四つ描いた後
身を翻して海の方へ消えた
港からは船が出て行く
郷里の島に寄港する船だ
何年も帰っていない
もうすぐ四月
母の七回忌がやって来る






自由詩 シジミ蝶 Copyright 壮佑 2013-12-20 20:25:35
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