夜空
ヒヤシンス


群衆の中を往き交う海猫達の叫びはなおも遠く、
この胸の錆び付いた音叉には共鳴しない。
道端で音楽を奏でる者たちに、路地裏の住人は白けている。
彼は言う。ペインが足りないのだ、と。

人は皆、少なからずの苦しみを持っているが、
誰もが自分の心のビーカーの許容範囲を知らない。
胸と胃の間が震える感覚は彼方の星空に溶けてしまえばいい。
涙の粒を小瓶に詰めてあの港から流してみようか。

家路を急ぐ人達の吐く白い息が各々の空に舞っている。
それは疲れてはいるけれど、決して汚れてはいない。
それは寒空に輝く美しい発光体となり、この世界を支えている。

路地裏の住人は苦笑する。ペインが足りない。
それがどうした!
全てはこの一言で片が付き、夜空には満月が浮かんでいるばかりだ。


自由詩 夜空 Copyright ヒヤシンス 2013-12-14 18:13:31
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