ファブレガス君の欺瞞
ブルース瀬戸内

空が採れたての金柑みたいな色になる頃
ファブレガス君は勇躍とウソをつきます。

空飛ぶ円盤を目撃したとかしてないとか
龍らしき輪郭を見たとか見ていないとか
国民よ、今こそ団結すべき時なんですよ、
外敵がやってきますよ本当ですよ、とか
下手な扇動も数打てば当たるかのごとく
矢継ぎ早にウソをついて気を引くのです。

まったくどうにも困ったものなのですが、
皆が選んだ大統領だから仕方ありません。

でもそんなことで国は揺らぎはしません。
ファブレガス君がどんなにウソついても
この国が衰退することなんてありません。

この国の先人達が堅牢なシステムを作り
誰がこの国のリーダーになったとしても
国民は不幸にならないようにしたのです。

だからファブレガス君が選ばれたのです。
ウソをつくくらいがちょうどいいのです。

ファブレガス君は確かにウソつきですが
それを説明している私こそウソつきです。
ファブレガス君は実在するのでしょうか。
この国って一体どこのことなのでしょう。

空が甘く熟した金柑みたいな色になる頃
私は扇動をやめて夕食のために帰ります。
他ならぬ私こそがファブレガスなのです。
そんな混乱を招く筋書きの演説をすると
国民の何人かが小さく「おぉ」と感嘆し
それ以外の国民はきょとんとしています。

私は自分を遠くまで突き放し過ぎたのか
突き放した先から戻る気配がありません。


自由詩 ファブレガス君の欺瞞 Copyright ブルース瀬戸内 2013-12-12 01:00:51
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