マッシュ・ポテトキングダム[或いは]暗黒じゃがたら狂想曲
ゴースト(無月野青馬)
哀願の言葉を訴えても
死刑執行は止められない
ギロチンは
間髪入れず放たれ
洟垂れ小僧と少女は
鮮血の色を知ったのです
王都の大通り
中央広場
小さな広場を大勢の見物人が取り巻いて
大海賊で大悪人の晒し首を嗤いながら眺めていました
クリアスカイ
ブルースカイ
万国共通のその空が
たった今は
ワインレッドに染まってしまって
洟垂れ小僧も
少女も
鼠捕りには十分に気を付けろという警句を得ました
水晶球
見通している
魔女の指示で妖しく蠢くマモノの集団
悪を悪とも思わない
魔女の指図で動く王様
善を善とも思わない
命を吸い育つマンドラゴラ
魔女の力を倍々に高めます
首を長く
背骨を太く
肋を増やした
魔女の力は天井知らず
銀河系をも操りたいと
思い始めた魔女の欲
羽根になり尾になり広がっていきました
今すぐ止めて
こんな「世界」を
少女の嘆きは届きません
今すぐ現れて
正義の味方
けれど少女の願いは叶いません
増え続ける肋骨が魔女の体から次から次に飛び出しては
途切れなく眷族が生まれ落ちていました
眷族はマモノと呼ばれていました
マンドラゴラ・ティーを飲む魔女の笑みは
破滅を破滅と思わない
断罪を断罪と思わない
魔女は
深層魔界の
シマネキソウ、オトギリソウ、トリカブトを
呼び寄せ定着させ
それらも肋骨のように増殖させました
そんな魔女の喫緊の課題は
蛮勇のゾンビ兵であり鼠のようには死なない兵士でもある大幹部を任命し配置することでありました
魔女は
毎週末にギロチン台から流れる血を集めては捧げて
稀代の大海賊で大悪人を
首無しのままで蘇らせました
そして
自分の船を操縦させる船長、大幹部に抜擢したのです
魔女の船は猛威を振るいました
マモノの集団は猛威を振るいました
ヒトガタとマモノは闘いに闘いました
自分の理想の実現の為にはギロチンで血を捧げられる魔女は
事後に
首無し船長と「世界」周遊クルージングを愉しんだといいます
その時には「世界」は
既に
マッシュポテトのように
潰れていて
均されていて
滑らかになっていて
海は茶色く濁っていました
どれもこれも魔女の仕業でした
魔女は茶色い海を見ながら
のんびりとクルーズをしたのです
この「世界」には今や
王都と魔女の船の中にしか
標準的なヒトガタは居ませんでした
あの少女は今は魔女の船で船員をやらされていて
同じようにパン職人として船で働く洟垂れ小僧との
脱出劇を夢想する日々を送っていました
実は
首無しの大海賊で大悪人の船長は少女の父親です
しかし
首無しなので
お互いを認識出来ないままなのです
その2人を同船させたのも嫉妬深い魔女の企みなのでした
魔女は
マッシュポテトを作るように
全ての事柄を潰していき
理想的な父と娘の関係も
滑らかな茶色にしてしまいます
2人の様子を観察しながら
魔女はワインをがぶ飲みしていました
全ての事柄を潰して
ぬりえを愉しむように
滑らかな茶色にしてしまう
ぬりえを愉しむように
哀願の言葉を塗り潰す魔女
けれど
洟垂れ小僧も一端の男
いつしか
魔女を
倒すことが
最大の目標になり
一矢を報いたいと思うようになっていました
パン職人として生きていけなくなったとしても
この王国で、魔女の船で生きていけなくなったとしても
あの少女と手を取り合い脱出したいと思い始めていたのです
けれど
そうは思っても
何かを決意しても
洟垂れ小僧は
いつだって
結局
何も何もしないのです
結局
何も何も出来ないのです
洟垂れ小僧は
洟を垂らすだけ
汽笛の音を聞き流しながら
甲板で洟を垂らすだけ
何故なら
魔女は
小僧を知り尽くしているからです
小僧は
魔女の眷族なのです
魔女の息吹きには逆らえないマモノなのです
反抗心は魔女の息吹きで凍り漬けにされてしまうのです
かくいう私は
自称の吟遊詩人
昔は王宮に通うコックで
その後は魔女の船でコックをしておりました
私は
自称の吟遊詩人
未来の国民の為に目撃談を残します
ポテト王国の哀しい歴史
マモノとヒトガタの戦闘を
物語にして
マモノ少年とヒトガタ少女のすれ違いを
物語にして残します
暗黒じゃがたら狂想曲
暗黒じゃがたら狂想曲なのであります
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