秋のすみれの走馬灯
もっぷ

すみれの咲く秋がある
すみれが好きな少女のために

春の庭に生まれた夢が孵る時がいまなんだ
と秋の実りにそよぐすみれ
常冬に住む老婆の許の菫色の裁縫箱には
針と糸と針刺しと並んでセピア色の願いが
大切にしまわれている

それは貝の殻が陸にのぼった標よりも
遡るいにしえから視えていたことで
この星の終わるいつかに
風が寿命を迎えるまでも続くはるかな約束

秋に咲くんだよ
すみれが秋に咲くんだよ

一億一千の時の扉を超えて
少女はささやきを聞いている
きのうもおとといもあしたにも
朝陽が、きょうの母親からの仕打ちを
忘れさせるよと彼女を眠らせる

いつか痣が残らない日日となった
彼女のからだが常冬をなぜ選んだのか
老婆となって持ち物は菫色の裁縫箱
少女の頃に着たかった夏の浴衣を
今夜も彼女は縫っている
秋の残り香を封じ込めるかのように
ひと針ひと針丁寧に

花火をみるんです/優しい母さんと

生まれたのは春でした
原風景は秋でした
心はいつも冬でした
夏のにぎわい知りません

すみれの咲く秋がある
すみれが好きなわたしのために



自由詩 秋のすみれの走馬灯 Copyright もっぷ 2013-12-08 00:35:22
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