日々、折り紙
まーつん
この折り紙を広げたら
思い出がひとつ
消えていく
ここは
思い出の小部屋
一日の最後に訪れて
折り紙を一つ置いていく
その日、私が
過ごした時間が
一つの形になって
残されていく
今まで過ごした
いい日も、悪い日も
いろいろな色や形となって
壁の棚に並んでいる
時々、そんな
過去の思い出を
手に取って眺めてみる
風と共に
野を駆けた日の記憶は
野生馬を象った
焦げ茶色の折り紙
ノートの陰から
あの娘を見つめて
胸を焦がした日の記憶は
淡いピンクのハート形
喧嘩に負けて砂を噛んだ
校庭の悔しさの記憶は
ひび割れたプライドを象った
欠けた小石の形の折り紙
この
雑然とした世界に
戸惑いながら生きていき
一日、一日を折り上げて
記憶の棚に並べていく
その日の始まりは
何時だってまっさら
一枚の白紙
でも、
紙に触れた指先から
その日の彩が、流れ込む
つい、と一息に染まっていく
憂鬱だったら灰色に
陽気に弾けたらレモン色
のびのび出来たら、そら色で
すくすく育てば若草色
思い出を捨てる
その日まで
記憶の色に染まる紙
過ぎ去った
時間の結晶
でも
捨ててしまいたい
記憶もある
思い出したくない
記憶の形を、べったりと
机の上で、平らに伸ばしてしまう
色が薄れて、真っ白に戻り
紙の面に残るのは
傷跡のような折り目だけ
屑籠に、丸めて捨ててしまおうか
そんな思いが一瞬よぎるが
抽斗の奥に仕舞い込む
破り捨てるには
忍びなく
気が向いたら
また、折り直すから
取っ手の傷んだ抽斗には、
そんな、四角い紙切れで一杯
幼い頃は
拙い指先で不器用に
星の形を折っていた
祈りを込めた日々の姿は
不格好でも、個性的だった
大人になったら
手早く無難に
妥協の形を折り上げる
小奇麗だけど、判で押した様に
どれも変わりばえしない
(溜息)
今日も一日を
折り上げました
慣れた手つきで
ササっとね…、でも
昨日とは、
似ているようで
すこしちがう
色も、形も
ちょっとだけ
(2013.12.6)