諏訪
……とある蛙
駐車場の一角
水面を撫でた風を受け
首を伸ばすと
視界が開けた眼下に湖
列島の海岸線から遙か遠く
ぽつんと置かれた水たまり
湖岸にぽつりと楓の木
秋の風に朱くなり
ここには敗者がいた
ここは敗者が過ごした
国譲りの建御名方神 (タケミナカタ)
信玄に滅ぼされた諏訪惣領家の頼重
父から勘当忌避された忠輝
父が敵討ちと称して殺された義周
満々と水をたたえた湖の
北と南に大社(おおやしろ)
四の宮と城一つ
神が住まう諏訪の地
恨みの魂も浄化される諏訪
あの曾良の出身地で
山は紅葉
朱い実を付けた
柿の木が一本 畠中
盆地の水田の中を
下諏訪から上諏訪に奔る
車窓からは紅葉の日本アルプス
柿の木が一本
湖面は青々と輝いている
澄んだ空気と
敗者の気配
諏訪は神々と敗者の
逼塞する地である