百年の鳥
はるな


あなたはそれから日記を書かなくなって、たぶん唇はかわいている。
テレビは消音のまま点けっぱなしになっているから、部屋のなかの光と音のバランスは悪い。視覚的な喧噪と、それを拒否する沈黙。でもカーテンはわずかに揺れている、窓は開いていない。壁に、美術の教科書から切り抜かれた絵がセロハンテープで貼られている。金箔と、抱擁と死と花。

祈るようにわたしは、わたしの安寧を考えます。だれかの、はわからなかった。たとえばひこうき雲に群れる烏。春の突風。犬のあくび。そういったものたちが、わたしにはとても必然に思えるとしても、それら自身はどこかへ逃げ出したいかもしれない。立ち尽くしてしまうわたしには、不可能性と無価値性だけが、尊く、また、安心であるように思えるのです。
わたしは、あなたの安寧を祈ります。それが何かわからないまま、望みます。許しはいつも初めに、心臓からはじまるべきだ。

きょうの眠り、夢で、テレビを消しに行く。
死なないでくださいとも、生きてくださいとも、死ねとも言えないわたしは、ただすべてがあるべきようにあることを思います。いるべきようにいて、死ぬべきように死んでください。夏に、とてつもなくかなしかった死を、わたしはとうとう乗り越えなかった。受け入れもしなかったし、受け流しもしなかった。わたしは何も理解しなかった。それは、いつまでも死だった。わたしはそんなに変わらないものを今まで、見たことがなかったから混乱したのだ。

わたしはたぶん笑います。指をすこし細くして、夜を平らにのばして。
そして鳥は、百年をそうしてきたように、飛びながら朝をつくっていきます。


自由詩 百年の鳥 Copyright はるな 2013-12-06 00:09:24
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