身辺雑記より(九)
たもつ



待ち合わせの時間まで
僕は地下街の書店で時間を潰すことにした
詩集のコーナーで数少ない詩集を二、三冊めくってみたが
どれもこれもピンとこなくて他のコーナーにある書籍も
黙りこくったまま何も僕に語りかけようとはしない
仕方なく三軒先の玩具屋で手品の小道具を千五百円出して買った
スタバの一番奥の席で早速箱を開けてみる
鍵がコインを貫通するそのトリックは実に巧妙にできていて
しかも仕掛けはいたってシンプルだ
一見複雑そうな世の中の仕組み等は所詮この程度なのかもしれない
数回練習するとコツをつかみ待ち合わせの改札口で
後からやって来た君に披露すると君は千五百円なりの驚き方をし
話題はすぐに昼食をどうするかということになった
君にこの手品を見せることはもう二度とないだろうし
他に見せる相手がいるわけでもない
それはそれとして子供の頃
僕の身体には自然と左右のどちらかに傾く癖があって
その度に両腕を水平に広げバランスをとらなけらばならなかった
今でも時々人ごみでそうしてしまう
ふと気づけば君も両腕を水平に広げている
空なんか飛べなくたってかまわない
ただ同じような君がいつも隣にいてくれてよかった





自由詩 身辺雑記より(九) Copyright たもつ 2005-01-11 19:19:09
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