卵2パック
Lucy

「すみません。おひとりさま1パックまでなんです。」

その日
特売の卵を2パック
かごに入れていた老人は
無情なレジ係にそう言われ
1パック取り上げられていた

解けかけた雪が
昨夜の寒波に凍りついた
危険なつるつる路面を歩いて
背中の曲がった老人は
ひとり買い物に来たのだろうか

日曜日の生協は
開店前から並ぶ人も多かった

老人のかごの中身は
卵のほかに
同じく特売の牛乳が一本と
納豆

かつかつの年金暮らしを支えるために
広告の隅から隅まで目を通し
特売の卵を2パック
それでひと月
何とか凌ごうとしたのだろうか
灯油も値上がりした事だし
今年の冬も長く厳しい

老人は無言で卵を諦め
傷ついたプライドを支えるように
レジ係にお金を渡す

「おひとりさま、1パック」
誰のための平等だろう
特売の卵で
命を繋ごうとしている人に
売ってあげなさいよ 黙って

そう言いたいけれど
真面目なパートのレジ係に
そんな裁量は許されていない


自由詩 卵2パック Copyright Lucy 2013-12-02 21:32:02
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