音楽
葉leaf



人間であることを返却する前に
再び人間となることを予約しておく
すばやい林檎の色に待ち伏せされては
夜道を歩く闇の物思いにかすかに混じっていく
滲んでくる朝と縫い合わされるために
人間であることを浮動させるために
音楽は淋しく走り続け
この渦と地球との和音を引き締め
この岩と人間とのリズムを澄み渡らせる

見慣れた部屋もいつでも滝つぼになりうるし
住み慣れた土地もいつでも異国になりうる
そのような空間の変換にいつでも抵抗できるのは
積み重なる音楽のひねられた掟のみだ
広がりや色がなくても大きく鮮やかであり
都市が衰退し人口が減ってもますます生い茂るのは
死人の生活と希望を当たり前のものにする
時と間を無効にする音楽の静かな停滞のみだ

日が落ちるとき作曲される海がある
事件が起きたとき演奏される法がある
人を愛するとき編曲される自己がある
国が独立するときに録音される軍隊がある
それでも音楽は頑なで誰にも心を開かない
万象が心を閉ざす音が音楽を構成する
地図には載っているけれど行ってみるとそこには存在しない
膨大な哲学が編まれているけれど誰一人理解できていない
全てを根源から洩らしてしまうので却って聴こえない
それが音楽である


自由詩 音楽 Copyright 葉leaf 2013-12-01 17:12:42
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