ユミ首

水性絵の具みたいな夜、アパートの窓に猿の顔が立ち上がってきて男の顔になったり女の顔になったり女の子の顔になったり好きだったユミちゃんの顔になったりオカンやオトンやオトウトやしまいに俺の顔になったままピッタリ微苦笑を浮かべ始めた。俺はカップ麺を啜りながら俺の顔と思しき猿の眼球の光彩を睨み付けているのだが猿は決してその笑いを崩さないので殴ってやろうと窓を開けてみるとやっぱり笑っている。夜気に当てられて冷えた生首が空中に浮きながら白い息も出さずにやっぱり浮いているのだ。窓の向こうでは、管理人の生やした植物の群れ群れがその猿首を取り囲んでいる。処女の膚みたいな月明かりが猿首越しに俺の部屋に入り込むのだが陰毛だらけの布団や蛆の這う弁当の殻が不吉なほどに美化されて俺はそれでもカップ麺をズルズル。猿は俺のズルズル記憶の間に漂う一種のズルズル幽霊あるいは亡霊ズルズルではないかと俺はズルズル思ったズルズル。そして俺は子供のズル頃にズルズル上野ズルズル動物園ズーッでズルズルズルズ殺し合うズルズル猿の群れを見たのをすぐに思い出したズルズルズルズルズズーッ。猿はストレスから共ズル食いをはじめそのとき休憩所でズーッコーヒーを飲んでいた飼育ズーッズーッ員の心など知ることズッもなく互いの喉を食おうとゴッホゴホホッオエッしていた。俺はサテこれはあのときの猿かねと思って記憶を更に巡らすのだがしかし俺が自涜に耽りながらその光景を見ていたのは確かであるが猿共は自業自得で死んだのだからこれは全く以て見当違いの話である。猿の亡霊は早急に猿のもとへ去るのだ。猿首は依然微苦笑のままである。俺は涙目になりながら猿首を睨み付けている。箸をヒョイと持ち上げて猿首に向けると些か狼狽した風でないこともない。彼の最期に見たであろう刺股を連想したのか、猿首はユミちゃんの顔になって悲しそうな表情をしやがったのである。俺は夜気と怒気がぶつかるのを感じながら箸を持ち直してユミちゃんの猿首の耳をつまんだ。猿首は僅かに吐息を漏らした。俺は勃起した。更に摘まみ上げる。ユミちゃんが苦悶の表情を浮かべる。俺はグヘヘと声を出す。ジッパーに陰茎が当たって痛い。俺は猿首改めユミちゃん首略してユミ首をどうにか窓から引きずり込んでイラマチオした。射精するとユミ首はしなしなと落下し畳に根を張った。やがて有り余るユミ首の実と種を成らせて、ユミ首はだんだんと顔を老いさせて枯れていった。俺はほろ苦い悲しみを胃の奥で感じながら首の根本を掻いた。


自由詩 ユミ首 Copyright  2013-11-28 23:57:52
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