ぽつぽつと、点を打つ悪が私のお腹の中で浮いて、渇いたくちびるを
震わせる。ひび割れ、皺も硬くなった手を持つ祖母は、重く垂れた瞼
から覗く黒目を更地となった公園に向けていた。朝、通ることが日々
の日課であった公園は今は無く、祖母は持て余した時間を公園であっ
た場の空白を見つめることで消費している。更地の加減無くめくり上
がった土が脈打つ血管を嫌に興奮させる。
ふと、更地を見つめる祖母は、戦争を思い出しているのではないかと
思い始めた。祖母は嬉しいときほど曲がった腰をさらに前傾させる。
今は、あの日を身体が覚えているのか引きつったように姿勢が伸びて
いた。あの手は遠くから分かるほど震えている。
悪の点々は私にいやな妄想をさせる。土の中に残った根っこが、いく
つか地上から顔を出している。頭の血流が脈打ち、頭部全体で古いア
フリカ大陸の打楽器のように響いた。根っこは潰された人間の手で、
細かい石ころは顔に見えた。吐き気よりも均一な恐怖がある。
かつて、公園の中心に立っていた木によって影落ちていた場所に祖母
はたって、夕日の陽光を浴びていた。僅かながら、先ほどよりも前傾
した腰に私は安堵しながら公園を後にした。
《劣の足掻きより:
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