夏になったら
佐々宝砂

動き続ける列車から飛び降りて
でも立ち止まってしまう
鉄が匂うレール脇に
赤いペンキ様の液体が飛び散っている

動き続ける列車は
だけどあんまりにもノロマでトロマで
しかもあんまりにもたくさんの車両をぶらさげていて
ながきながき春暁の貨物列車なのかもしれないけど
春はまだ来たらず
まして夏はまだまだ来ない

夏はどこだ!

赤いペンキ様の液体は
血ではなく
糞便でもなく
吐瀉物でさえないので
シンナーとベンジンをかけてみたが
事態は改善しない
硝酸と硫酸を混ぜてかけてみたいと思うが
そんなことしたら怒られると思う

もういちど列車に飛び乗る
そうしなくちゃいけないので
飛び乗る

夏になったら
もうすこしやさしくなりたい
動き続ける列車がどんなにかったるくても
赤いペンキ様の液体に全身を汚しても
夏になったら


自由詩 夏になったら Copyright 佐々宝砂 2005-01-11 06:30:15
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