夏になったら
佐々宝砂
動き続ける列車から飛び降りて
でも立ち止まってしまう
鉄が匂うレール脇に
赤いペンキ様の液体が飛び散っている
動き続ける列車は
だけどあんまりにもノロマでトロマで
しかもあんまりにもたくさんの車両をぶらさげていて
ながきながき春暁の貨物列車なのかもしれないけど
春はまだ来たらず
まして夏はまだまだ来ない
夏はどこだ!
赤いペンキ様の液体は
血ではなく
糞便でもなく
吐瀉物でさえないので
シンナーとベンジンをかけてみたが
事態は改善しない
硝酸と硫酸を混ぜてかけてみたいと思うが
そんなことしたら怒られると思う
もういちど列車に飛び乗る
そうしなくちゃいけないので
飛び乗る
夏になったら
もうすこしやさしくなりたい
動き続ける列車がどんなにかったるくても
赤いペンキ様の液体に全身を汚しても
夏になったら