グリコのおまけ
ichirou

あたし世界中を旅するの

大学病院小児科病棟の主
チエちゃんは言う

イチロウにやる!

僕と同い年の女の子
チエちゃんはいつも上から目線

僕は週に一度か二度
グリコのおまけを
チエちゃんからもらった

でもチエちゃんは決してキャラメルを
僕にくれない

一粒300メートルのキャラメルを
チエちゃんは大切に貯蔵している
世界中を旅するために

チエちゃんはいろんなことを
教えてくれる
病院からほとんど出たことがないのに

ある時
片足がないお兄さんが看護婦さんに見送られて
病院を出て行った
僕とチエちゃんのいつもの問答が始まる

あの人どこに行くの?

退院したのよ

たいいん て何?

ケガや病気が治ったから病院を出て行くのよ

え? でもあの人 足がないよ

無くても治ったのよ

治るということは
元通り足が生えていることじゃないなんて

僕は治るという意味が全く分からなくなった

途方に暮れる僕を後目に
チエちゃんは笑いながら地下の売店で
グリコキャラメルを買う
そしておまけを僕にくれる

イチロウ あんた来週手術よ

チエちゃんは何でも知っている

しゅじゅつ て何?

痛くて気持ち悪いことよ
あたしは5回もしたんだから
あんたは頭の手術だから丸坊主ね

チエちゃんは何でも知っている

僕は手術が怖くなった
頭がなくなってしまうような気がして

僕はチエちゃんに言う
手術が怖い

チエちゃんはあきれた顔で
励ましてくれる

男なんだから頑張りなさいよ
面白いもの見せてあげるから

そう言うとチエちゃんは
病棟の裏に僕を連れ出し
いつもお腹に貼っている大きなガーゼを剥がした
すると
ピンク色のきれいなものがニョキニョキ出てきた

腸よ
手術でお腹に穴を開けたの
あたしお尻の穴がないの
だからあたしはお腹から
うんこを出すのよ

手術しないと死んじゃうんだから
イチロウ あんたも頑張んなさい

僕は泣きながらその場を逃げ出した

ごめんなさい

次の日
僕はチエちゃんに謝った
するとチエちゃんは
あっかんべ しながら
またグリコのおまけを僕にくれた

それから僕は何度もグリコのおまけをもらった

グリコのおまけが17個になった
僕の退院の日
チエちゃんはすごく機嫌が悪くて
口をきいてくれなかったけど
初めて僕にキャラメルをひとつくれた

僕はキャラメルを舐めながら
グリコのおまけと
いっしょに退院した


自由詩 グリコのおまけ Copyright ichirou 2013-11-22 21:40:52
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