デッドリンクの日
ゴースト(無月野青馬)

一言で
闇を
止めることが出来たなら
苦労などしない
一言で
死を
止めることが出来るなら
苦労などしない
一言で
世界を
滅亡の淵から救い出せるなら
犠牲はいらない
一言では
闇を
死を
滅亡を
止められないから
人は
悶え苦しむ
ゾンビに憧れる
どうしても
晴れない
心の靄
憂鬱の霧
何をすれば正しいのか
誰を信じれば正しいのかが
分からない
分からないままの
カーチェイス
ブレーキの壊れた車で
カーチェイスを
しているようなもの
一言でも
助言があったなら
僅かな好機も
訪れたかもしれないが
天候は
未曾有のテンペストだったのだ
どんな巻き返しも
叶わなかっただろう
戯れに
自己の
死期を
四季の中で
探ろうとしても
ゾンビが
紛れ込んだ
地域では
あらゆる正しさが
屈折したり
鬱積したりするから
完全な占いなどは
二度と出来なくなる
そして
破局は
波紋のように
広がり出し
第4コーナーを
驚異的なスピードで
加速していく
伝言の時間が
どれくらい
残されているのかも
読めなくなる
完璧に
タイミングを
外された後では
何を言えばいいのか
何が正しいのか
やはり
誰からも
助言されない
一言では
闇も
死も
滅亡も
止められない
一言では
ゾンビも
止められない
こんなにも
脆弱なのに
「僕達」は
こんなにも
丸腰なのに
何故
闘争心を
燃やしてしまうのだろう
何故
何かを変えられると
信じてしまうのだろう
エゴなら
人を
動かしている
中身がエゴなら
そんなエゴは
ゾンビにはないから
ゾンビを
動かしているのは
エゴではないから
ゾンビに
成り変わることが
出来るのならば
ゾンビに成って
しまうことが
「僕達」の
幸福な姿なのかも知れないと思う
本当に
繋がっているのは
人と人なのかと思う
本当に
繋がっているのは
人と闇
人と死
人と滅亡
ではないか
そう思うと
とても正しい気持ちがした
でも
それは
とても短い
人生の
最大の
クライマックスのように流れ去って行った
その峠を越えてからは
何も
恐くなくなった
枷が
外れたようで
カサカサだった
瘡蓋が
外れていく時のようで
四方からの
優しさに
包まれたようになって
やがては
一言も言葉を
発さなくても
仲間内では分かり合えるようになって
心持ちも
変わって
衛兵に
頭蓋骨を
かち割られても
構わないと思え
頭蓋骨をかち割られても
歩ける気がして
何処までも
歩ける気がして
そのまま
最果てまで
行けるだろうから
何処までも
「僕達」は
行ってしまうのだろうと
思えたから
「僕」の
感性は
劇的に変わって
「僕達」は
劇的に変わって
一言では
止められない
歩みの力を
手に入れてしまって
強靭に
なった気がした
「僕達」の
歩みは
簡単には
止められないはず
だから
衛兵の皆さんは
どうぞ
苦労して下さい
どうぞ
苦心して下さい
どうぞ
「僕達」の
正しさを叩いては
脳漿に
塗れて下さいとまで
思えるようになっていた
強気で
振る舞うようになっていた
「僕」は
信じていた
エゴを
無くした
ゾンビになっても
「僕達」は
愛し合うことも
歌い続けることも
出来ると
思っていた
何を食べて
生きていくべきなのか
今までと変わらず
議論が出来ると
思っていた
言葉を無くしても
記憶を無くしていっても
理性を無くしていっても
目的地は
忘れないと思っていた
歩む先には
山が聳えていて
「僕達」を
迎え入れてくれて
其処に
生け贄の
折り重なった神殿が
出来上がればいいのだと
思っていた
其処から
始まるのだと思っていた
新世界は
尊い
血溜まりから
始まるのだと思っていた
白い羽を生やした神様が
「僕達」を
新世界へ
導いてくれるものだと
信じていた
黒雲が
「僕達」を
呑み込んでしまうまで
助言は
最後まで無かった
一言も
無かった
一言で
「僕達」が止まれたのかは
分からない
一言で
「僕達」から
闇を
死を
滅亡を
衛兵を
退けられたのかは分からない
何より
制止の言葉が弱かった
脆弱な「僕達」よりも
「僕達」の教わってきた
制止の言葉が弱かったから
「僕達」は
他のものに頼らなければ
ならなかった
「僕達」では
どうやれば
言葉を鍛えられるのか
分からなかった
全て
喪われていた
予め
全てが
喪われていたから
「僕達」は
ずっと
血眼で
鎧の代わりを探していた
血眼で
剣の代わりを探していた
そして
古い
墓地で
出遭った
臭気の漂う墓暴きに出遭った
「僕」は
「僕達」は
墓暴きに近付いた
墓暴きは
「僕」と
「僕達」と近かった
学校で飛び交う教師や校長の使い古された美辞麗句よりも
親達の折檻と罵声よりも
衛兵の観察眼よりも
「僕」と
「僕達」と
墓暴きは
近かった
親しかった
一言もまとな会話はしなくても
心と心が通じ合っていた
見捨てられた墓地の中で
心と心を通じ合わせていた
「僕達」が
黒雲に
呑み込まれてしまう日までは





自由詩 デッドリンクの日 Copyright ゴースト(無月野青馬) 2013-11-22 04:23:04
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