冬情
月乃助


冬がとどく
 

真夜中のようにしずかに
  誰にも 気づかれることの
  ないように


技師のつめたい指をして
  冬は、いつもきびしさで やってくる


翳ろう冬空は 鈍色にびいろ
  ねずみが ねずみ色
  空色を失った 空


力あるものは、いつもさらなる権力を欲するように
  枯葉の従者たちが舞うなか 冬の
  北風の叫び声をあげる


秋をさがせば、
  過ぎ去ったのと、何もないのとは同じこと
  ファウストのじいさんの言葉がよみがえり、


幻覚がみたくて
  時計の針をはずし
  魂をあずけた 許婚いいなづけを想う
  冬は、冬の夜ならば なおさら
  思い出の/す ためにある


千代の冬
  暖炉のぬくもりに
  記憶の火の粉をちらし
  雪の野辺に立つ
  あの時の少女を
  焦がる


粉砂糖のような雪でした


林檎のほほ
  十七歳


時に限りなどありようもなく
  ただ、人の 命の
  囚われが身







自由詩 冬情 Copyright 月乃助 2013-11-21 23:44:31
notebook Home