古くからの漁法を使って
草野春心



  テナガザルが白い顔をひきつらせて けらけらと笑っているような
  摩訶不思議な雨が きょうは降っていた
  いたるところで石を打ち 草を濡らし 心をかなしくして



  きのうの朝日がひとしれず 残していったぶとうパンの匂い……
  それは消えるだろう
  壇上で振り回されるか細いタクトだけが あなたの
  行く末を闇のむこうに示している
  けれども結局、それもまもなく消えるだろう



  古くからの漁法を使ってわたしは言葉をとらえる
  「山茶花」「おはじき」「つま先」「レミング」
  「甜菜」「海綿」「混沌」「雪解け」
  「ブラームス」「のどかな町」
  「あなた」
  「……あなた……」



  あしたの影を追って ピアノの音があるいている
  その姿をわたしは
  見つめている
  聴いている
  わたしたちがあこがれてやまない、
  「夢……」それだけは けっして消えないだろう




自由詩 古くからの漁法を使って Copyright 草野春心 2013-11-21 23:18:00
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