冬に立つ
ヒヤシンス
散り敷かれた落葉に半ば埋もれかけている公園のベンチが私に語る。
この人間の抜け殻のような落葉達のお陰で私は寒さをしのげるのだ、と。
お前はお前のその心を寒さから守ってくれるものを持っているか、と。
私は答えた。
未だ見ぬ友なら持っている。
ベンチは静かに頷いて、その暖かな心で自分に腰掛けるよう私に許した。
孤独なものだとばかり思っていたそのベンチはとても暖かかった。
湧き上がってくる感情を必死で堪え、眼前の海を見つめる。
冬の訪れを予感した海面が吹き荒ぶ風によってあらゆる表情を見せる。
風によって舞い上がる落葉たちはまるでバレリーナのようだった。
私はここで自分の体に張り付いているレッテルをゆっくりと剥がすのだ。
幸福への回帰は実に簡単なものだった。
私はただ積み上げられた積み木を崩すだけでよいのだ。
体に幾重にもまとわりついている衣を一枚ずつ脱いでゆけばよいのだ。
私はいつしか生まれたままの姿に戻り、純白な美しい羽を持っていた。
そして私の眼前には、母なる大地が悠然と横たわっている。
さあ、とベンチは語る。
お前が帰るべき処さえ間違えなければ、いつでもやり直すことが出来る。
お前はお前の心の休まる場所からまた羽ばたくことが出来る。
疲れたらいつでも帰っておいで。
少なくともお前は私より孤独ではない。
これから寒い冬を迎えるベンチとの対話。
私の心は暖炉を灯したように暖かくなった。
私はベンチに軽く手を添え、ゆっくりと立ち上がった。
そして再び歩き始めた。
黄昏に染まる公園通りの街路樹がクリスマスのイルミネーションで彩られている。