ベビーベッド
ayano




スープ付きの秋はとうに横切って 手にしたスプーンの冷たさに思わず手を離してしまった


ありふれた夏、紺色に吐き出された雲のなかでバスに押し込まれた午前七時 見上げる彼女の表情は水色 結露した指切りの音は涼しくレモン色で 首元に注がれる視線のせいで焦がされてしまいそうだった 狙いを定めて堪えるように凝視する空はひたすらに濃厚で はじきだされた空気から眼球に水圧がかかったようだった


跳ねる 魚のように 冷えたスプーン 午前五時のことだ 確信していた 同時にうなだれていた 目の前にあるのは調理された彼女 なのだろう 足元には水 が流れている 例によって嵩が増したのが不本意だった 結露 水がかたくなる 夏から 秋から 凛とした横顔に風が吹いた そんな淡い錯覚を携えて 食べなくては 舌を出して なぜなら誰も「代え」 を持ってきてくれないから 目をつむるだけで 震えた 脚を組まないと どうもやっていられない けれど叶わなくて 腰をほんの少し浮かした 土踏まずにまとわりつく液体がくすぐったい すぶぬれ 舌に空気が乗る 頭をうしろから押してくれる彼女 その妄想 目の前なのに ぁ あじ 味 味とはなんだったか もはや腕全体が悴んだのかぶらさがっていて 犬のように皿を舐めた もともと冷製だったのかもしれない さらに冷えて 口から溢れる唾液が熱に浮かされていた のけぞっては また あのときのように喉元を晒していた 内面から破壊されていく 首をひたして 患部を撫ぜるようにスープは笑っていた


自由詩 ベビーベッド Copyright ayano 2013-11-19 20:29:33
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