名も無き人
イナエ

むしり取られ山積みされた路傍の名も無き草
人は一括りに雑草と呼ぶ けれど 
一本一本取りだし丹念に調べればたいそうな名が有って
いや 持たされて 力芝 車前草 藪枯らし 葛
ああくず 葛餅 葛湯の原剤も此処では屑
屑は再生資源となり あるいは
書き損じた紙切れ同様熱資源
名も無き草の生ゴミ堆肥は石ころ混じりの畑で
生産者名入りのブランド野菜果物に吸収され
名も無き 道の駅に並ぶ

名前はあっても 姿のない生産者
姿はあっても 名も無い雑草 
路傍の蓬 荒れ地の文字摺 古典の名草 今雑草 
西洋蒲公英 雀の豌豆 
沿道の小石 ごろ石 名も無き石ころ 
は人の名になり 大石 小石 おれの婆様名はお石
大石主税 内蔵助の子 討ち入りしなけりゃただの武士
お家断絶浪人者 百姓していた爺ッさの先祖も素浪人
とはいうものの名前は不明 権左右衛門か権兵衛 五郎兵衛
ごろつき権太 ごろつきよりは無名が良いかも

墓でさえ 
後から名付けた佐藤 伊藤 山田に田中家先祖代々
さらに家の先祖を探れば 木製の墓標は土に戻り 
誰が置いたか漬け物石に変わり果て 
名前なんぞはどこにも見当たらない

ナポレオンよおごるなかれ 
凱旋将軍支えたのは名も無き兵士 
王を支え国を守った 名も無き防人 
庶民は常に名も無き民さ

原発事故処理 現場で働く
名も無き下請け業者の名も無き若者 

無名の民から詩人が産まれて
何千人の詩人に紛れ 何万冊の詩集に埋もれて
詩集の死臭もなく
紙の碑とは言えど見る人も無く図書館に埋葬されて
やがて 野辺の煙…
今や煙などになることさえ許されず宙に消える

気をつけるが良い
あなたが今吸い込んだ空気の分子 何粒かは
お石婆様の分解されたのものかも知れん


自由詩 名も無き人 Copyright イナエ 2013-11-16 18:38:14
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