うつくしくみずみずしいリンゴだったので
bookofheaven

うつくしくみずみずしいリンゴだったので
これはおいしいはずだと
あなたが言ったので
本当を知るわたしは ずっと胸をおさえていた

太陽のひざしをめいっぱいあびたような
そんなうつくしいリンゴだったので
みずに濡れた白い手が
みずに濡れたナイフで
するする するする 白い実をさらしても
かんがえもしなかった あなた

やわらかい種の周囲の
ほんの少しの茶色のシミ
眉をひそめてそぎ落としたのは
無邪気においしいはずだといったあなた

うつくしくみずみずしいリンゴだったので
これはおいしいはずだと
あなたが言ったので
わたしは言わなかった
本当はそのリンゴは遠い遠い国から運ばれていて
表面はワックスでピカピカにされていて
同じカゴで売られていたほかの仲間は
とうてい食べれた外見じゃなかったなんて

言えばよかったろうか わたしは
言ってしまえば
あなたの手にとられることもなかった
あなたの眉をひそめさせることもなかった
あなたにかじられることもなくて
平行線のままの関係にあればよかったか

あなたが
おいしいはずだと声はずませて言うたびに
本当を知るわたしは
言葉もなく胸をおさえている


自由詩 うつくしくみずみずしいリンゴだったので Copyright bookofheaven 2013-11-15 09:18:21
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