「変身」
月形半分子
静かな昼下がり、図書室に入ると
カーテンからまいあがる埃が光のなかで渦を巻いていた
私は美しいものになりたくて夢みがちに書棚をめぐりあるく
時々、ひんやりとした背表紙の感触を楽しみながら
突然、私の指に痛みがはしった
見ると、カフカ全集のなかから
刺のある虫の足が数本這い出ている
徐々にそれは、醜い姿を私の前にあらわす
カフカは目ざめたのだ
どうしたって美しくなれない私を嗅ぎ付けて
やがて、影が落ちてきて、私は飲み込まれていった
カフカが問う。「お前は何者だ」
問われる私の背中が真っ赤な薔薇模様に裂けると
体液を撒き散らして八本の足が音をたててはえた
気がつけば私は強い牙と毒をもっていた
カフカは笑った
「毒もたんまりとは悪くない!!」
そうだったのか、恐ろしい女!それが私!
カフカが私にまた問う
「恐ろしいほどに女!それもまたお前
お前の望む美とはなんだ!!」
毒虫の喉が血肉欲しさに鳴る。もはや私にとって美はひとつ。
「それは獲物」
床の上、私の腹に日が溜まり
やがてカフカも満足する白昼夢