おんなが笑っている
HAL


おんなが笑っている
高笑いでもなく微笑みでもなく
氷雨に打たれ空を見上げ
おんなが笑っている

おんなの頬を伝うのは
雨粒だろうか涙だろうか
痩せたおんなだった
背の高いおんなだった
美しい彫刻のようなおんなだった

そのおんなの視線がゆっくりと
ぼくのほうにかわった
おんなはまだ笑っている

おんなを視ているぼくを笑っている
だけどせせら笑いではなかった
ぼくとぼくの世界性をただ笑っている
見下すでもなく敬うでもなく
ぼくとぼくの世界性を笑っている

そしてぼくにゆっくりと歩を進めた
ぼくはおんなにそっと抱きしめられた
おんなからは知らない花の芳香がした

その見知らぬ花の匂いのする抱擁のなかで
ぼくの60兆の細胞はおんなの60兆の細胞と
溶けながらひとつになろうとしていた
その初めて憶える感覚のなかで
強い睡魔がぼくに襲いかかってきた

瞼をあけていられなかった
遠のいていく意識を感じながら
ぼくはやっと気がついた

おんなは紛れもなく
ぼくのための棺だった
ぼくの溶けかかった瞳孔は視ていた

おんなが笑っている


自由詩 おんなが笑っている Copyright HAL 2013-11-13 12:07:21
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