ひとつ 結晶
木立 悟






夜の荒れ野
肉厚の双葉
祈りに閉じる
滴の手のひら


瀧が桜に覆われ
音しか聞こえない
やがてすべてが
流れの先に遠のいてゆく


舗装路の亀裂に
沈みゆく鉛筆
遠去かる空に
刻まれた文字


息と夜の
はざまの銀河
三つの森に浮かぶむらさき
何も映らない鏡のむらさき


荒れ地に昇る陽
腕ひらくひと
裏口の扉の隙間から
翠と鉛の庭はそよぐ


光の下で 雪は育つ
聞こえない水音の
かたちだけが振動し
ただそばに居る
そばに居る手のひら


幻と街
冬と鏡像
暮れと継ぎめ
門と響き


別の銀河は近くとも
紙と筆は無限に遠い
傷に降る花
火を絞める花


真綿は騒ぎ
真綿は黙る
窓の外に立つ
黒とこがね


静かで新たな湿り気が
何も生まれない場所へ近づく
錫を見る 翠を見る
内を焼くものの色を呑む


来たる場所を至る場所を
水たまりの結晶が見つめている
うそでもまことでもあるそのままの手
こぼれ またたき
ひらかれる






























自由詩 ひとつ 結晶 Copyright 木立 悟 2013-11-13 01:45:24
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