ヘンゼルとグレーテルとまともさん
因子
ものを書き捨てて行く
爪やヒフや肉などを
少しずつ来た道に落としていく
いつか元いた場所に
帰り着きたいと思っている
それがどこかもう忘れてしまったけれど
わかってる
母のおなかの中だ
私の行く先に
「まともさん」がいる
きっと永遠にたどり着けず
私はその居場所を
いろんな人に尋ねながら
「まともさん」のことを
ひとつも説明できずに
お酒を飲んで酔っ払い
「まともさん」の物まねをし
悲しくなって泣き出すと
みんな似てたよと言いながら
ニコニコ私を慰めてくれる
「まともさん」はどこかにいる
私が東にいれば西に
西にいれば東にいる
地にいれば天にいる
通勤中のサラリーマンの
鞄の上や肩にいる
明日隣の席にいる
私だけがたどり着けない。