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きるぷ
外国から封書がとどいた
ギリシャ文字の切手に、
数ヶ月前の消印が押されていた
知り合いは元々すくないし、
海外から手紙をよこす人間といえば
もう何年も会わないあの人ぐらいだった
・
目を通すと、
やや神経質な声が耳元で聞こえるような尖った筆跡が
すでになつかしかった
なんてことない挨拶と日常のはなし
その中に挟まれた、
こっちではタコが大変美味しいです。
という一文にぼくは笑った
何かを一緒に食べている記憶ばかりがあるな、
と思った
・・
雨は今日も続き、
夜になると激しくなったから、
時々どこにいるのかわからなくなる現実感だった
そういえばあの人とは
けんかをして会わなくなり、
以来あまり思い出すこともなかった
それから数年の年月がある意味でひとしく流れ、
そしていま、この投げ出されたような部屋と
明るいギリシャとのあいだを
大変美味しいタコのイメージが隙間なく埋めている
そう思うことは、
なんだか不思議だった
・・・
雨は降りつづき、
つよい風が雨戸を音をたてて揺らした
忍び寄ったなにかに執拗に見つめられている気がして、
ぼくは思わずそのほうをふり返った