いちず
るるりら

いちじくは
花を 外に 開かない
いちじくは
内側に無数の花をつけ
やわはだの秘密を 隠し持つ


ある日
たったひとつの いちじくの実に
たった一匹の 蜂が来た



いちじくの内側にくるまれた その虫は
にちじくの恍惚に すっかり魅了され
いちじくの蜜をたらふく吸い
いちじくのために 受粉する

いちじくは じゅくじゅくの いちじくになったころ 地に落ちて
いちじくの思いは ちぢとみだれる
ふたじく
みじく
よじく 百じく 千じくに 散った想いは みな
あの日の蜂を 忘れてない 

同じころ その蜂も
何世代も何世代も子供たちを たやさない
あの時の 蜂の子孫たちは あれから何千年も

たった一本のあの日の いちじくの木を忘れてない
それが証拠に あのときの蜂の子孫たちは 一匹残らず
たった一本のあの日の いちじくの木の実のところだけに行く
そして 蜂は、いちじくだけに 聞こえる 精一杯の大きな声で

「 愛してるよ 」と 叫ぶ。






自由詩 いちず Copyright るるりら 2013-11-02 22:02:13
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