いとしさ
草野春心



  こんな寒い冬の日には
  錆びかけた薬缶に水をいれて
  ストーブのうえに置いておこう



  けさ、空気はするどく冷たく尖っていた
  鳥の声はぴんと張られた針金のようだった
  外は白い靄につつまれ…… ぼくは、
  きみのことを いとしいと思った
  こみあげる涙のような
  ほとばしる怒りのようなそれを
  なぜ ぼくは いとしさだとわかったのだろう



  ふいにふれた髪の毛はこごえている
  薬缶がしゅっしゅと音をたてている
  なぜ
  ぼくたちは
  何かとまちがえたりしないのだろう
  刺し貫かれ 引き裂かれる痛みのような
  抱きしめられ すべて赦される安らぎのような
  こんなにもややこしく わけのわからないものを




自由詩 いとしさ Copyright 草野春心 2013-11-02 12:48:35
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