玉ねぎの涙
イナエ

秋の夕暮れ
床に漂う冷気に足を漬け
おとこひとりタマネギを剥く

まな板に乗せ 包丁を持ち
玉ねぎの白い肌が 
病床の妻に重なって
ためらったおとこから
逃げたタマネギ

床から拾い上げたおとこの手は
タマネギに取られ
まな板にのったのはおとこ

皮を剥かれて 
剥き出しになった心 
切り離される房状の
涙腺は
微塵に刻まれ

喉に溜めていた昨日の 
涙がこぼれ
妻を看た夕べの 
嗚咽が流れだし

顔の見えない 
女を切りきざみ
心に秘めた玉手箱まで
切りきざみ

笑うタマネギを
眼は睨み 
涙が恨み


自由詩 玉ねぎの涙 Copyright イナエ 2013-11-02 09:38:19
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