少 年
塔野夏子

1

繊細な抒情と
硬質な抽象の狭間に
不意に出現する少年の輪郭


2

指さきから歌を零している
気づかずに どうしても
指さきから歌を零してしまう


3

羽搏きに似た瞬き


4

まなじりから閃く光 地上の流星


5

少年はいつも未知という余白を連れて
あざやかに自らを映し出す


6

生そのものが美しい傷
その傷に突き刺さっている少年自身


7

北十字に結ぶ約束
たとえ果たされることがなくとも
至純にきらめきつづける


8

少年の描く図形は常に三角形である


9

未だ鳴ることを知らない弦の上を月光が奔る


10

遠くからの声を聞いている
眠っていても めざめていても
果てしなさの呼ぶ声を耳の奥に聞いている


11

そして自らに手ひどく裏切られ
あやうく鋭く覚醒する





自由詩 少 年 Copyright 塔野夏子 2013-10-31 20:28:28
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