累卵
神山

あそこの靴屋は
きれいなかたちのかなしみを売っている

こどもに蹴られて傷んでいた
ひろいあげて
ショーウィンドウにふたつ
つみかさねた
朱欒の実

黄昏どきは
半透明の落葉とおんなじ
つめたい窓に
押しつけた瞼が
かさかさ睫毛を踏んで
くらい路地の葉脈はどんどん
かぼそく透けていくのだ

夜ふけ
サイレンの左折
最上階までたちのぼり
あれは誰のとゆびをさす
曲がり角の防波堤できえた

あそこの灯台は
きれいなかたちの殺意を照っている

鳥に摘まれて傷んでいた
ひろいあげて
波間にふたつ
つみかさねた


ひとの泣くときにわらう
決死の獣は
冴えに冴えた目で
獲物の限りをみつめ
ふいの翳りのいつくしみで
かはたれどきに
何も見ないでみうしなう
逃がしたさきの
じぶんの飢えをくらっていくのだ


自由詩 累卵 Copyright 神山 2013-10-30 02:42:16
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