loved
mizunomadoka

これがあなた弟の部屋よ
案内してくれた女はノエミといった
薄いブルーの冷蔵庫
錆びたコンロとケトル
想像してたよりもずっと生活感があった
家事なんてしたことなかったのに

窓を開けると
埃っぽい風が吹き込んでくる
この街で暮らしながら
弟は私たちのことを忘れたのだろう
ずっと憎んでいただろう
勘当した父も
連絡しなかった母と私も

冷蔵庫の中は綺麗に片付いてた
静かに主人の帰りを待ってた

連絡を受けた夜
母は狂ったように父を罵った
泣き疲れた母をベッドに寝かせたあと
ガレージに降りると
古いフォードのハンドルにすがりついて
父が嗚咽を押し殺していた

こんな思いをするなら
連絡もせず会いにも行かずただどこかで気にかけて
いつかこんなひどい思いをするくらいなら
もっと早く会いにいけばよかった

生きてるうちに手紙を書いて電話をして汽車に乗って
どんな顔をしたらいいのかなんてわからないままで






自由詩 loved Copyright mizunomadoka 2013-10-29 19:43:30
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