エレベーター
nonya


地階の
寡黙な土踏まずから
4階の
華やかな脾臓まで
動脈としてのエレベーターは
人と花束と高揚を
送り届けた

6階の
冷徹な口角から
1階の
大らかなアキレス腱まで
静脈としてのエレベーターは
人と段ボール箱と落胆を
送り出した

3階の
気づかれなかった溜息を乗せて
8階の
開け放たれた窓に向かった
呼吸器としてのエレベーターは
彼女とスマホと孤独を
ゆっくり吐き出した

一筋縄ではいかないことを
知らしめるために
ごく稀に理不尽な位置で
停止することもあるが

勝手に凹んで
奈落に堕ちることもなく
変に舞い上がって
銀河を目指すこともなく

指の腹から繰り出される
明快な指示に従い
エレベーターは
細長い暗闇の中で
律儀に上下する

人の時間と空間の切れ目を
さりげなく繋ぐために
エレベーターは
埃だらけの異次元を
正しく上下する

そこに昨日を乗せるのか
そこに明日を乗せるのか
それは人の勝手だ




自由詩 エレベーター Copyright nonya 2013-10-26 20:33:26
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