灰の雨
まーつん
見たくもないものが
見えてしまう時
人は、目を閉ざす
そうして
彼等は裸となり
波打ち際に寝転がり
片耳を、砂に押し付けて
波の轟きに
聞き入っている
剥き出しの身体は
白く、冷え切る
石となった
明けの空に、星は霞み
夜の帳を賑わせた
宴の響きも遠ざかり
灰色の空の下
何かが茎を伸ばし
色のない花弁を広げ
空しく咲き誇った
去りゆく命の数々が
砂に刻んだ足跡は
波打ち際を、点々と
染みのように飾っていく
見えなくなるまで、遠くまで
身を寄せ合う魚達は
一つの影に溶け合って
海の底に深く眠り
一羽のシロサギが
亡骸の間に立ち尽くし
じっと、私を見つめている
打ち寄せる波を背に
鳥は、ゆっくりと
翼を打ち振る
巻き起こる風が
見えない刃となって
頬を切り裂き
顔を庇って頽れる私
四季を巡らす回転ドア
その蝶番が錆びつき
苦しげに軋しむ時
シロサギは
空に、問いかける
いつ 私に
春を返してくれるのか、と
無言の空から
答える様に
灰が降る
軽く、柔らかく
粉雪のように
でも、冷たくはない
私の掌に
粉と砕け
風のない空を
忍び足で
降りてくる
全ての魂を
毛布となって
包み込む
眠気に駆られた
シロサギは
躯の間に蹲る
その翼は
二度と開かれず
その両の眼は
重く閉ざされ
そして灰は
降り積もる
全ての命が、目覚めを
忘れ果てるまで